山を駈ける風になれ2009年 10月号

 
2009年9月5日(土)北神戸/丹生山 (2.5万図 淡河)
あまり馴染みの無い山系である。サイクリングで訪れるには近くもなく、かといって遠くもなく中途半
端な距離にあるというのがその理由である。とはいえ今日のようにあまり時間に余裕が無いときはいい
のかも知れない。

どういうわけか早くに目が覚めてしまったので、午前5時16分という早いスタートになる。気温は高
くはないが蒸し暑く、赤坂峠をちょっと遅めのタイムで通過、天上橋を左折し県道三木三田線を走って
いるうちに調子も上がって気がつけば三木市、御坂の交差点の先にあるコンビニで食糧を補給。ターン
して御坂から谷上に抜ける県道に向い、つくはら湖の東端にあるサイクリング・ターミナルに到着する
(7時52分)。

今日はこの山系の盟主丹生山に登ろうというプラン。サイクリング・ターミナルの裏手に登山口がある。
自転車をデポし、支度を整えてササヤブの道を登り始める(7時58分)。俗に義経道と呼ばれるルー
トである。
全般にササヤブの中を進むルートであるが、傾斜もきつくなく、自然な感じのする気持のいい道である。
尾根筋の北側に入ると涼しい風が吹いてきて秋を感じる。
義経道から頂上を目指します石仏が出てくれば表参道合流は近い

登り始めて25分で石仏が並ぶ分岐に出る。反対側には墓が並んでいる。更に3分ほどで表参道コース と合流する。丹生神社まで3丁の丁石が建っている。道はダブルトラック幅のよく踏まれた道になる。 2丁、1丁と現れる丁石は実際の1丁よりも距離が短いように感じる。すぐに次の丁石が現れるので気 分はラク、丹生神社の鳥居をくぐり、縦走路を見送り、石段を登って本殿に着く(8時29分)。
丹生神社本殿

本殿を囲む樹木で展望はない。拝殿の前に座って軽食補給をする。ツクツクボウシとミンミンゼミが行 く夏を惜しむかのようにしきりに鳴いている。山頂で少し休んで下山にかかる。時間があれば帝釈山に 向かう縦走コースを歩いてみたいが我慢。表参道コースを下る。最後まで幅のある山道でクモの巣に悩 まされることもない。
大日如来が祀られている

裏参道コースと合流すれば簡易舗装路に変わり、ますます歩きやすくなる。大日如来を祀った岩場など を眺めながら下っていくと志染川に架かる橋の手前に降りてくる(8時20分)。神戸に出る道なので 交通量が多い。 すっかり気温が高くなった歩道を歩いてサイクリング・ターミナルに戻り、自転車を回収する。少し時 間があるのですぐ近くにある箱木千年家にでも立ち寄ってみるかと向かえば、開館時間前ということで 入ることができない。何だ入館料がいるのか。それにしても敷地内に入らないと建物の外観すら見えな いようなシステムになっている。 ここまで古い民家は無いのかも知れないが、そこまでしてみたい茅葺民家ではない。白けた気分になっ て帰ることにする。 箕谷に向かって走るルートはずっと向い風、大池までは上り基調が続き、往きとは別人の走りになる。 途中から風向きが変わり“復活”。我ながら現金なものだと一人苦笑いしながら赤坂峠を駆け上がった。         (本日の走行距離73km) 2009年9月20日(日)京都/越畑~樒原(2.5万図 殿田、亀岡他) シルバーウィークというらしい。5日とも好天が予想される中でも、20日が最も天気がいいというの で、秋の棚田の風景を求めて京都の越畑まで足を延ばすことにする。愛宕山の麓に隠れ里のように散居 する越畑と樒原は予て一度訪ねてみたいと思っていたところである。さてどんな風景に巡り会えること ができるだろうか。 午前5時26分、日の出を待ち切れずにスタートする。いつものように川西能勢口回りで県道を北上、 満開のソバの花を眺めながら杉生で水分補給を摂る。強い北風が吹いている割にはハイペースだ。ここ から中山峠、逢坂峠、柊峠の連続峠越えで亀岡に。 今年3月、城山に行くときに使った道を走って千代川地区へ下り、山陰本線の踏切を越え、桂川に架か る月読橋というロマンチックな名前の橋を渡って尚も東に進むと、目の前に地蔵山を主峰とする愛宕山 連山が迫ってくる。 突き当りを北に進路を取る。向かい風が一段と強くなり減速を余儀なくされるが南丹市に。調子に乗っ て行き過ぎるハプニングもあったが、最初の訪問地八木町氷所の氷室神社に着く(8時24分)。
まずは氷室神社にお参り

鳥居には『幡日佐・氷室 両神社』と掲額されている。一般に有名なのは京都西賀茂の氷室神社だが、 この氷所にある氷室神社も創建和銅元年(708年)という古社で、今も毎年氷室祭が行われていると いう由緒正しき神社である。 ここからどうやって朝廷に氷を献上していたのであろうか。亀岡から川下りで嵐山へ? まるで氷の保 津川下りだな。 さて、境内を巡りながら休憩をとったところで紅葉峠に向かう。いきなりの急坂に足が売り切れ状態に なるが、カーブが多くなりだすと傾斜も落ち着き、それなりにペース配分も取り戻せるようになる。大 きく南に出張ったところに展望台が設置されている。
紅葉峠の1km手前にある展望台からの眺め

景色を眺めがてら5分ほど休憩をとり、次に紅葉山への登り口を探しながら峠に向かう。長年の雑木山 歩きで鍛えられた嗅覚とでもいうのだろうか、道路のすぐ脇にそれらしき踏跡がここが入口だと言わん ばかりにこちらを見ているように思えてくるから不思議だ。松茸山入山禁止区域にもなっておらず、よ く踏まれた道を辿ること3分で山頂部に到達する(9時08分)。
ただの雑木山だった紅葉山山頂

地形図にその名前が載りながら、何も無いただの雑木山である。念の為に山頂部を越えてもう少し先ま で歩いてみたが、南西方向にどんどん下っていくだけなのでやはりさっきの場所が山頂なんだなと確認 できる程度である。(紅葉山へ向かう地形図の破線は微妙に異なっている) 道路まで戻り、紅葉峠に向かう。峠はすぐ。するすると下ると突き当りを右折、広い直線道路が気持い い。ここで本日初めて追い風を受けて快走モードに入る。 R477と合流、水が殆ど無い廻り田池を見ながら走るとこの先は「京都市」。自転車で京都市域を走 るのは実に17年ぶり2度目であるが、とても京都市(れっきとした京都市右京区)とは思えないとこ ろが面白い。 再びR477を離れ、いっきにダンシングで右に大きくカーブする道を上り切れば、有名な蕎麦処の店 が現れる。もう越畑である(9時29分)。 営業開始は11時。軒先のベンチを借りて途中のコンビニで調達したサンドイッチで“ブランチ”タイ ムにする。傾斜地に広がるブドウ畑を眺めながら食べていると、一組の熟年夫婦がやって来て腕時計と 看板に書いてある営業開始時間とを見比べている。こんな何にもないところで1時間半を潰すのはしん どいかも知れない。 さてエネルギー補給が終わったところで、越畑集落ポタリング開始である。すぐに道路東側に重厚な茅 葺の邸宅が現れる。旧河原家住宅といって母屋は今から350年前、入口の茅葺の門も300年前に造 られたものだという。屋敷の横に聳えている大銀杏がこの屋敷の風格を一層引き立たせている。周囲の 風景との調和度合は箱木千年家より断然こちらの方がいい(ってそんなに目の敵にすることもないが)。
豪壮な造りの旧河原家住宅これでも京都市内です

少し先へ行く。西側に棚田が広がる。半分ほどの田圃はもう稲刈りを終えている。棚田の写真を上手く 撮ろうと思えば、棚田の広がる斜面に正対する斜面から撮らねばならない。結局のどかな京都市内の風 景がカメラに収まっただけで終わる。まあ体感できたからよしとしよう。 続いては鎧田と呼ばれる棚田が現れる。確かに鎧のように見える。もうここは樒原地区である。
樒原の鎧田樒原地区の中心部です

樒原(しきみがはら)とは何とも印象的な名前である。集落の中心部に入る(9時55分)。路線バス の転換スペースがあるだけの何も無い場所なのに、何故か心に訴えかける景色がある。集落は主に道路 より下に広がっている。ここに住んでいる人は毎日の買い物は何処へ出かけるのだろう。集落の中には 愛宕山の登り口がある。 小さな集落はすぐに通り過ぎ、植林帯の中を行く林道に変わる。丹波と播磨を結ぶ生野峠を思わせる道 である。 樒原を過ぎて1kmほどいくと、この林道の最高点の鞍部に着く(10時03分)。この先は長い下り。 下りに備えて水分補給をしていると反対方向からサイクリストが一人やってくる。嵯峨野や嵐山からも そう遠くはないので京都市内(ここも京都市内だが)からやってくるサイクリストのいいコースになっ ているのだろう。
本日のツーリングの最高点

さて、快適な下りが始まる。路面が適当に荒れているのでハイスピードは出せない分、じっくり景色を 堪能しながら下ることができる。小さなカーブをいくつも下っていく。少し明るくなったところで神明 峠と書かれたポイントを通過する。 峠と書かれていた割には単なる下りの途中でしかなかったなあと思いながら尚も下っていく。ん?こん なに下りは長かったっけ。下りながら頭の中に2.5万図を開く。と、道路の左手に果樹園が現れる。 あの青い実は柚・・・?! 柚といえば水尾。ということは行き過ぎている。さっきの峠で右折する道を見落としたようだ。このま ま下れば嵯峨野を通って天竜寺に出てしまう。京都市内観光が目的ではないのでさっきの峠まで引き返 すことにする。 下りの速さにくらべ上りの何と遅いことか。よくもこれだけ気付かずに下ってきたなと思う頃、ようや く峠に着く(10時25分)。分岐で曲がろうとしていた道はゲートが閉ざされているではないか。ど うりで分岐とは気付かずに下ってしまった筈だ。 さて、ゲートはクルマの通行を禁止したもので、歩行者や自転車は通れるようになっている。愛宕谷林 道である。この林道で作業に従事するクルマ以外は入れないようになっている分、路面はMTB向きの ダブルトラック・コースと化している。 木漏れ日の林道を石ころか、落ち葉か、木の実か見分けながら下らなければならない。4kmの林道を 15分かけてようやく抜ける(10時40分)。 どうにか抜けたと安心してゲートに自転車を立てかけ、水を飲みながら林道の注意書きに目をやると『 クマに注意』の文字が・・・。何だよ。林道に入る前に言って欲しかったな。もう抜けて来たじゃない か。
どうにか林道を下ってきました

林道を出るとそこは亀岡市保津町。集落を抜けると保津橋の向こうに亀岡の中心部が見えている。JR 亀岡駅前、市役所前を通り、R9を越えればいつも慣れ親しんだR372。北から西寄りに向きを変え た強風が向かい風となって思うようにスピードは出せないが、満開のコスモス園を見ながら西に走れば 湯の花温泉、少し上れば本梅町。マイ・サイクルフィールドである。 柊峠を越えれば風も追い風に変わり、爆走モードに。気温26℃、湿度も低く真夏と違って秋のサイク リングは快適。途中昼食休憩を摂りながら帰ってもまだ13時半。いい秋の一日を楽しむことができた 満足のツーリングであった。         (本日の走行距離145km) 2009年9月26日(土)豊能/秋景色に石仏の里を訪ねて(2.5万図 妙見山、埴生) 暑くも寒くもないこの時季はサイクリングには一番いい季節。この週末も好天が期待できるということ で、今日は豊能町余野地区に点在する野仏を訪ねながらのんびり走ることに。標題もNHKのローカル 番組っぽいタイトルにまとめてみた。 ただ直接余野に向かったのでは近すぎるので、全体で100km程度の走りが楽しめるように杉生-中 山峠-逢坂峠-奥田橋-倉垣橋-堀越峠-犬甘野回りで豊能町に向かうことに。 午前5時37分出発。ピークを過ぎたヒガンバナに代わり、満開のソバの花を眺めながら杉生へ。
ソバ畑

ここから奥田橋までは先週と同じ。いつもながら西側から上るときつい堀越峠を越えて一旦亀岡市へ。 鴻応山の山裾を巻いて南下、切畑口の交差点を曲がるとまず見えてくるのが余野十三仏である。
余野十三仏

コスモスの花に彩られのどかな風景にとけこんでいる。十三仏というが、表裏各20体の仏様が彫られ ていると横の解説板に書いてあるので裏に回り込んでみると確かに・・・。永禄7年(1564年)の ものというから、6月に紹介した川尻地区の多尊石仏とほぼ同じ時期に造られたもののようである。 府道に戻り東に向かう。下所にある多尊石仏と地蔵石仏を訪ねる。
切畑大円下所多尊石仏切畑大円下所地蔵石仏

大きな多尊石仏である。幅3mくらいあるだろうか。薄暗いところにあるので写真ではいまいちわかり にくいが、ひとつひとつの石仏はしっかり彫られている。天正2年(1574年)のもの。 地蔵石仏はもっと古くて南北朝時代のものらしい。 更に茨木方面に向かい、クリ園の農道を行くと釈迦堂があり、横手に笠塔婆と法筐印塔が立っている。
切畑大円釈迦堂阿弥陀三尊笠塔婆切畑大円釈迦堂法筐印塔

笠は無いが笠が上に乗っかっていたことはすぐに見て取れる。乾元2年(1303年)のものだそうで、 700年前のものはこの地区でも最も古いもののひとつといえよう。法筐印塔も室町中期のものだそう だ。 今日はサイクリストが多い。最後に通り過ぎてしまった西野の多尊石仏に立ち寄って帰ることにしたい。
西野多尊石仏

ここもクリ林の奥にひっそりと佇んでいる。花筒に挿してある花は新しく、今も村の人たちの信仰を集 めているのがわかる。 以前紹介した川尻地区を含め、わずか10kmほどの間にこれだけ多尊石仏がたくさんあるのは全国的 にも珍しいのではないだろうか。尚、岩に彫られている石仏や文字については、総て横に豊能町教委の 解説板が立っているので、是非現地に赴いて実物を見ながらじっくりその意味を味わって頂きたい。         (本日の走行距離100km)   織田(おりた)さんへのメールはbabrx800@jttk.zaq.ne.jpまで・・・。

表紙にもどる

『山であそぼっ』にもどる