秋の臨時増刊号

 
2001年10月6日(土)信州/美ヶ原MTBヒルクライム+トレッキング
(2.5万図 山辺、和田、5万図 松本、和田)

☆プロローグ:10月5日(金)
21時42分、定刻通り列車は大阪駅を離れはじめた。三連休のスタートを明日に控えたキタの街は、
いつにも増して華やかな賑わいを見せている。そんな都会の喧騒から逃れるかのように列車は速度を
上げて行く。一週間の仕事の疲れと、これから始まる旅の昂ぶりが渾然一体となって体の中を駆け巡
っている。
急行ちくま――大阪と信州をつなぐ唯一の直行列車である。以前は寝台車両をつないでいたようだが
今はない。物言わぬ相棒を傍らに置いて一人車窓から夜景を眺めながら、やがて眠りにつくのはいつ
ものならい。だが、今回は趣きが異なる。通路を挟んで反対側に座る妙齢の女性2人と時折り言葉を
交わす。これぞ旅ならでは、と言いたいところだが、世の中そう都合よくは出来ていない。何を隠そ
うヤブ山歩き最多出場コンビ、コンパス姫とミスB、2人ともやけに美しく見えるのは夜行列車とい
う旅情満点の舞台設定がなせるワザか、はたまた気のせいか。
全員仕事を早めに切り上げて一旦帰宅、風呂に入ってからノーメークで大阪駅に向かうとコンパス姫。
本人と判別できればいいが(あ、いやいや)。とにかく大勢の人である。列車の中はさながら信州秋
山登山ご一行様貸切状態といったところだ。

秋のMTBスペシャル・ツーリング、信州美ヶ原ヒルクライム+トレッキング。日本一の高原の秋を
満喫しながら、北アルプスをはじめとする山々を眺めながら行くという贅沢この上ない企画。標高2
000mの高原をMTBで駆けるのは尾崎喜八の詩(注1)を引き合いに出すまでもなく想像するだ
けで痛快。この“巨人の頭”(注2)に敬意を表して麓から挑む。

(注1)…詩人、尾崎喜八は戦前、美ヶ原を訪れた時に次のような詩を詠んだ。
     
登リツイテ不意ニヒラケタ眼前ノ風景ニ、
     シバラクハ世界ノ天井ガ抜ケタカト思フ。
     ヤガテ一歩ヲ踏ミコンデ岩ニマタガリナガラ、
     此ノ高サニオケル此ノ広ガリノ把握ニ尚モクルシム。
     無制限ナ、オホドカナ、荒ッポクテ、新鮮ナ、
     コノ風景ノ情緒ハタダ身ニシミルヤウニ本源的デ、
     尋常ノ尺度ニハマルデ桁ガ外レテヰル。
     
この詩は高原の中央部にある「美しの塔」にあるレリーフに刻まれている。

(注2)…美ヶ原最高峰王ケ頭は「巨人の頭」という意味。松本平からこの山を見るとそう見
えるところから付けられたという。


実はこのツーリングを企画したのには理由がある。今年最大のイベントになる筈だった8月の四国剣
山〜高知がいささか消化不良気味に終わったことである。三嶺まで縦走すればそれなりに充実したか
も知れない。が何と言っても登山口の見の越まで車でラクちん移動をしたのがいけなかった。山は麓
から登らないと本当の姿、懐の深さがわからない。
そこで2000m級の山岳へのリベンジ、日程にも制約があるので日帰り、という条件で選び出した
のがこの美ヶ原だ。“宝塚”という地の利を生かしてJASで往復を考えたが時間に余裕がなくボツ。
代わってこの鉄道案が浮上したという次第。純粋な日帰りではないが、さりとてどこに泊まるわけで
もない。0泊2日だ。
更に計画を詰め準備を進めていく過程で、ヤブ山歩きのメンバー達へのお誘いを思いつく。あの景色
を一人で味わうのはもったいない。彼女達にも見て欲しい。そこで打診すればコンパス姫、ミスB、
ミセスFの3人が飛びついてきた。しかし、目下負傷リハビリ中のミセスFは当日までに快復は難し
いとの判断から泣く泣くリタイア、かくしてMTB1、歩き2の山行となったのである。

☆1stステージ:松本
明けて10月6日午前4時14分、松本駅に到着。いやあ大変な混雑だった。名古屋から自由席を求
めて乗り込んできた若者たちが通路にあふれていた。おまけに「照明が明るい、話声がきこえる、横
になれない、何度もよく長時間停車する」ということでハッキリ言って一睡もできなかった。
松本駅で大量に降りた乗客はすぐに出発する人、しばらく駅で仮眠をとる人など様々だ。われわれも
出発までには時間があるので駅構内の一角を陣取って朝食タイムに。コンパス姫から知人からの差し
入れです、と有名店のバッテラと巻き寿司を頂く。美味い。まだ半分眠っているのか箸を持つ指先に
力が入らない姫は巻き寿司をバラバラにしている。
ゆっくり食事を終えてもまだ5時前だ。外は暗い。だが、さすがに松本は登山基地、どこかの登山ツ
アーの添乗員が旗を持って客が揃うのを待っている。MTBを組み立て、不要な荷物をまとめてコイ
ンロッカーに預ける。バスで上る2人に松本電鉄バスターミナルの場所を案内、厚い雲が垂れ込める
5時50分、「上で待ってるよ」と手を振って出発する。


☆	2ndステージ:美ヶ原MTBヒルクライム
多分そうなるはず。バスの発車時刻は8時40分、2時間50分も先に出発するのだ。途中林道を離
れ、武石峰登山をする予定ではあるが、「押し」が続かない限りは先に着ける筈…。
外気温7℃。凛とした空気の中、駅前通りを東に走る。いよいよ美ヶ原ヒルクライムの開始だ。今回
のツーリングのメインである。早朝の松本市内は走る車もほとんどなく、静まりかえっている。「浅
間温泉」、「上田、丸子」、「美ヶ原」などと書かれた行き先案内標識の下をくぐる度に、今信州の
地を自分の足で走っているのだなあと実感する。
あがたの森手前の交差点を左折、浅間温泉方面へと向かう。19年前このあたりの民宿に数日間滞在
したことがある。あれはどこだったか。松本の自動車教習所の近くだった記憶があるがわからない。
当時を思えば19年後に再びこの地を、しかも自転車で訪れようとは全く予想だにしなかったことで
ある。

浅間温泉。ここから登りがはじまる

6時03分、浅間温泉観光案内所前に到着。MTBを停めて地形図で現在地を確認するが、結局案内 標識の通りに行ったほうがわかりやすそうだ。ひなびた旅館街をぬけるといきなりの急坂、慌ててギ アを軽くする。道も細い。みるみるギアは軽くなり、あっという間にインナー×ローに2枚残しの状 態になる。ここんところのトレーニングの影響か腰がだるい。おまけに一睡もしていないときている。 まだ上り始めたばかりだ。こんなことで美ヶ原のてっぺんまで行けるのかと早くも弱気になる。 一直線の急坂を上り、道が左へ緩くカーブするあたりに「美ヶ原林道起点」の文字。「え、ここから 本格的な上りが始まるということ?今までの上りはウォーミング・アップってこと?」 心拍数もいっきに跳ね上がる。六甲ではこんなことなかった。やはり寝不足の影響が大きいか。「美 鈴湖まで3km」の標識が現れる。急坂は続くがペースは落ち着き、心拍数も元に戻る。「美鈴湖ま で2km」、サイクルコンピューターのタイムでは、この1km上るのに10分近くかかっている。 平均時速6kmか、確かにそんなもんだ。「美鈴湖まで1km」あたりからは傾斜も緩くなり、湖が 見え出す頃には緩い下りも現れスピードアップ、6時40分旧料金所手前のレークサイド美鈴湖横に 着く。標高1000m、とにかく温泉街から340m上ってきた。 空を覆っていた厚い雲も晴れ、好天の兆し。去年から無料となって今は建物だけが残る料金所をカメ ラに収めたり水分補給を摂ったりした後、再びMTBにまたがる。「美ヶ原高原あと17km」の標 識、ゆっくり行きましょう。 ここからもしばらく急坂は続くが、部分的に速度を上げて登れるところもあり、いい感じが戻ってき た。林道の両脇はアカマツを主体とした雑木林、ちょっとガスっていて、幻想的な雰囲気である。勿 論、自分のほかには誰一人通る人もなく、地元の山菜採りの人の車が追い越していくのみだ。 美鈴湖から20分で渋池バス停前を通過、道が南へ大きくカーブするところで北側の展望が開けるビ ューポイントが現れる。ガスっていてくっきりとは見えないが、真北に播州千ケ峰のような山容の戸 谷峰が見え、その右手前の山の端に恐竜の角のような岩が見える。烏帽子岩(1621m)のようだ。 このあたりは最近道路を整備したのか、道幅も広げられ、ところどころ断片のように現れる旧林道の 傾斜に比べると一定の斜度を保って上れるようになっている。白樺口を過ぎると斜度14%の標識が 現れ、本日一番の上りに入る。メーターは6km/h内外の速度ながら、徐々に色づいていく森の風 景と新鮮な空気が疲れを感じさせない。この程度の斜度ならうちの家の周りの方がよっぽど急だ、な どと気分的に余裕も。 7時32分、燕岩見晴台に到着。見晴台とは言っても一直線の急坂の途中にポツンとバス停があるだ けで、それらしきものは見当たらない。地形図を広げて現在地を確認、1450mまで標高を稼いだ。 美鈴湖から6.6km、平均斜度6.8%。次の目標は武石峠(1800m)だ。 7時55分、袴越。この区間はなかなか手ごわい。そのはずだ。さきほどの燕岩見晴台から2.6k mで標高差300mの上り。平均斜度は11.5%にもなる。ここからはしばらく平坦、峠分岐手前 の上りはダンシングで気分はツール・ド・フランスかつての山岳王、リシャール・ビランク。 8時13分、道が大きく左カーブする奥に「武石峠茶屋跡・風穴跡」の石標と説明板。ちょっと寄っ てみる。『武石峠は松本から上田方面へ行く近道であったが、荷物の輸送は宿場の反対があって禁止 された。峠の茶屋は元禄時代の古文書に出る。風穴は慶応元年、茶屋を営んだ洞の飯沼源一郎が、こ こに地下1階、地上1階の施設を建て、蚕種の貯蔵と研究を行い、大正8年廃止するまで広く県の内 外の蚕種業者から利用された。今は石垣が残る』とある。風穴は埋められてしまったのだろうか。そ の右横にちょろちょろ流れる水場は『女鳥羽川源流』の標識が。 先を行く。もう一つカーブをクリアすれば武石峠との分岐、さあ美ヶ原まであと5kmの表示が出た。 南に大きくカーブすれば西に展望が大きく開ける。雲海越しにまず槍ケ岳の勇姿が目に飛び込んでく る。ここまで上ってきた苦労が報われる瞬間だ。気分爽快、上りなのに20km/hを超える速度で 走っている。雲海の底、松本でバスの発車を待っている2人にこの感動を早く伝えたい。 茶屋跡から10分ほどで思い出の丘に到着。ここで林道から離れ、武石峰登山にかかる。本日初めて のシングルトラックである。よく整備されたハイキング道で乗車したままクリア、まずは武石峰北西 1kmにある1935ピークに立つ(8時35分)。北アルプスは沸き立つ雲に隠れて見えないが、 抜群の景色が広がる。
思いでの丘から1935ピークに着く

続く武石峰へと続く鞍部への下りは更に痛快、右下を走る林道を見ながらササ原の草原をMAX24 km/hで疾走。MTBならではの醍醐味だ。鞍部からの登り返しは丸太の階段が組まれていて「担 ぎ」を強いられる。ササ原をびしょ濡れになりながら8時48分、武石峰山頂に到着。 丸い頂上部にはケルンが積まれており、その中に石仏が鎮座している。三角点はその前、 「お、もしかして…」と近づいてみれば1等三角点だ(1972.6m)。王ケ頭にではなく、ここ にあるのが面白い。ということは距離からして王ケ頭の山頂にある三角点は3等ということか。
武石峰山頂。ケルンの前に三角点

ここも360度の眺望が開ける。東の焼山(1908m)のササ原が美しい。風景を堪能したあと武 石峰バス停に向けて下る。乗車したまま下れるが、振り向くと紅葉が美しく、思わず立ち止まってし まう。結局10分かかって下山、林道に戻る。 ここで標高1890m、美ヶ原高原バス停まではあとわずか。うれしいことに少し下りが現れる。景 色が大きいのでそれほど下っているようには見えなかったが、スピードメーターは50km/hを超 えている。ガスが流れる尾根筋を軽快に走りぬけ、最後のひと上りをこなすとバスターミナル、自然 保護センターの建物が現れる。やったー!駐車場に到着だ。9時09分、なんとか全線乗車したまま で上り切ることができた。武石峰に登ったりしていたので、浅間温泉から3時間かかったが、ヒルク ライムに限れば2時間06分19秒で標高差1360m、21kmを登ったことになる。いやあよく 登った。今回の大一番終了だ。 駐車場の一角にMTBを停めてエネルギー補給だ。気温7℃、風が吹き抜けると肌寒いが日がさして いるので暖かい。バス組がやってくるまでにはまだ小一時間あるので、自然保護センターの中を覗い たり、土産物屋の中を覗いたりして時間を過ごす。 ☆3rdステージ:高原トレッキング 今日はガスが多い。例年なら朝の最低気温は3℃くらいになるが、今年は気温が高いので、ガスが下 がりにくい、とは店のおやじさんの言葉。次々と湧いては流れていく。瞬間的にガスが切れ、穂高が 勇姿を現す。 バスの到着時刻までまだ10分近くあると思っているとバスがやってきた。早いじゃないか。バスの 中に乗っている2人を発見、向こうも土産物センターの中にいる当方を発見、手を振っている。喫茶 店で休んでいるといってたので、眠りこけているのではと心配したが、大丈夫だったようだ。再会を 祝いあう。なぜかお互いにテンションが高い。 「おとうさんは自転車で、家族の方はバスですか」とおやじさん。え?どういう内訳だ。どっちが奥 さんに見えたのだろうと思ったが、コンパス姫とミスBは同年代。ということはおとうさんと娘2人? なんでやねん。そんなに年いってないぞ!
今回歩きで参加の2人

バス停で記念撮影、10時25分トレッキング開始。歩き2人のスピードに合わせながらMTBを操る。 座ってゆっくりペダルを回しながら並行する。歩いている2人には申し訳ないほどラクだ。 天狗の庭を過ぎ、林道の両脇の紅葉を眺めながらゆっくり歩く。天気は最高、あとはガスが晴れてく れることを祈るのみ。最初に現れる分岐で右に折れ、まず王ケ鼻に向かう。王ケ鼻は北アルプスの展 望台 だ。私自身、美ヶ原は3度目だが、王ケ鼻は初めてだ。ちょっと下って登り返すところでお先にひと っ走り、展望台と無線中継塔の分岐で2人を待つ。 「あそこに遭難碑がありましたよ」とコンパス姫。「そうなんですか」とオヤジギャグを飛ばしたが、 「ええ、2人の名前が彫ってありましたよ」と何の返しもないミスB。コンパス姫は途中で気がつい たようだが、トレッキングを心から堪能しているミスBには全く通じていない。淋しい。 高原バスセンターから20分ほどで王ケ鼻に着いた。すでに20人ばかりの人が展望を楽しんでいる。 石仏群の横に上がってみれば、雲湧き立つ彼方に穂高連峰が見える。2人も初めて見る光景に感動し ているようだ。雲が流れた。槍ケ岳も姿を現した。急いでカメラを構えるがすぐにガスに包まれるた めになかなかシャッターチャンスが難しい。 ここでも記念撮影。岩の一番高いところに登れば南東側の絶壁は見事な紅葉。吹く風に体を預けなが ら展望を楽しむ。穂高から南を目で追えば、乗鞍、御岳も見える。ふと気が付けば時計は11時にな ろうとしている。ここで長居をしていては高原美術館まで歩けなくなってしまう。後ろ髪をひかれる 思いで王ケ鼻を離れ、王ケ頭に向かう。
王ケ鼻から穂高連峰王ケ頭頂上から下る

王ケ頭は美ヶ原の最高峰である。まずは三角点を拝みに行こうと2人を促す。ホテルの横からNHK 中継塔の裏手に回ると三角点が立っている(11時15分)。2034.1m、3等三角点だ。通常 土の中に埋まっている部分まで地表に出ている。2人には珍しかったようだ。 ここで今回グルメ担当部長に任命したミスBから高原牛乳を飲みましょうとの提案、山小屋のような ホテルの食堂で牛乳を頂く。美味い。「ジャージーに味が似てません?」とミスB。何事にもこだわ りを持つミスB、私とコンパス姫は“濃い”ということだけしかわからない。ミスBにグルメ部長を 任命したのは正解だったようだ。 王ケ頭を出発、高原歩きに入る。広々とした光景はまさに世界の天井がぬけたよう。王ケ頭を下った ところで、MTBを脇に置いて休んでいるアベックがいる。自分と同じような人もいるようだと思っ たが、1450m(松本駅からの標高差)を登って来たようにはとても見えない。 2人と並んで歩いているとMTBにまたがった2人が追い越していった。乗車姿勢から車に積んでき た“ニセモノ”であることが判明。 牛はいないのかと思っていたが、塩クレ場を過ぎると牛の姿が見えてきた。牛のフンを見つけてはし ゃぐコンパス姫、そう言えば去年、黒豆を食べている、とイノシシのフンを解析していたのは彼女だ った。ミスBはというと、たくさんいるホルスタインを眺めながら、どうしてオスばっかりいるんで しょう、小屋は見あたらないけど、夜はどこに寝るのでしょう、と“こだわって”いる。
塩クレ場付近をサイクリング

12時、美しの塔。ここに前述の尾崎喜八の詩が刻まれている。東に八ヶ岳連峰が見えるが、先に槍、 穂高を拝んだせいか感動が少ない。予定より早くなった。山本小屋に着く。駐車場があり、車に積ん できたMTBを降ろして、付近を周回している若者が数人いる。さっきの手合いもこうした連中の一 人であったようだ。若いんだろ、下から上がって来いよ。 さて、おやきを食べ、牛伏山に登る。岩がゴロゴロして歩きにくい。とはいっても頂上はすぐ、12 時40分牛伏山山頂に到着する。三角点を探すコンパス姫、残念ながらこの山には三角点はない。1 990mの山頂にはケルンがたくさん積まれている。レリーフの前で記念撮影、物見石山にも足を運 んでみようと考えていたが、帰りのバスの時間を考えるとムリっぽいので、美術館方面へ下りること にする。 13時、美ヶ原高原美術館前。帰りのバスの発車時間まで40分あるが、美術館横の芝生の上でお菓 子を食べながら休憩する。気温16℃、日差しも適度に弱くてポカポカ、その内2人は芝生の上に寝 転んでしまった。日焼けを嫌って顔にタオルをかけて。美術館に通じる渡り廊下を歩く人達がちらち らとこちらを見ている。そりゃそうだろう、どう見たって交通事故に遭って救急車が来るまで現場に 並べられた遺体の図だ。 ☆4thステージ:ビーナスライン・ダウンヒル + ゴール 13時30分、2人に先立って下山に入る。帰りはビーナスライン経由だ。バスより絶対早く着く、 と宣言する私に信じられない様子のミスB。まあ見てろと出発。いきなり飛ばせば左右に分岐。「左、 松本、武石村。右、松本IC、和田村」とある。え?どっちも松本だけどどっちなんだ、と思いつつ も曲がり易い左へ下って料金所で料金を払いながらきいてみると逆のよう。ヒエーッ、いきなり間違 えた。バスに10分のアドバンテージを得て走り出したのにだめじゃないか。慌てて坂道を一気に登 るとビーナスライン、1959mの最高点をクリアして下りに入る。 これは快適、とガンガン下りを楽しむ。次に現れた料金所で領収書を見せながらおばちゃんにルート を聞くとあとは下りだけだという。やったダウンヒルの連続だ、と思っていたら登り返し。朝のヒル クライムで使った足がここでこたえる。交通量も多いし、そんなにヘロヘロ状態で登れもしないので、 スピードアップするものだから余計に足にくる。「1639m」と書かれたコブをクリア、一旦15 95mまで下る。続いて現れる登りは「1643m」のコブ、また下ると三度1650mのコブ。だ んだん高くなって行くじゃないか。 扉峠はどこだ、と思いながらも上ること4度目にしてようやく標高1660m、扉峠に到着する(1 3時59分)。バスにいつ抜かれてもおかしくない速度だったが、幸いまだ姿は見えない。扉峠をカ メラに収め、よもぎこば林道ではなく、小滝山の南を下る細い林道を下ることにする。
扉峠。日本を代表する二大高原
美ヶ原と霧ヶ峰の名前が・・

この道はスリリングだ。林道の入口に「道荒れている、落石あり」、などと物騒なことが書かれてい るものだから車が1台思案げに停まっている。とにかく道幅が狭い。4〜4.5mの道幅、簡易舗装 の道はいたるところで割れている。木漏れ日で道が斑点のように見えるところに、石ころ、折れた木 の枝が散らばっている。ここを50km/h近いスピードで左右に下って行く。ブラインドカーブの 連続コース、朝の美ヶ原林道とちがって林間を駆け下るコース、たまに上ってくる対向車に出会うの が更にスリリングだ。この道はバスが走る道よりもかなり距離が長い。当然、バスは先を走っている ことだろう。でもこの連続ブラインドカーブはちょっと味わえない。 いくら下っても山の中だ。ホームコースの丹波や北摂ではすぐに人家が現れるが、これだけ下ってま だ山の中だと、本当に松本に向かっているのだろうかと不安になる。25分ほど下って扉温泉まで下 りてきた。松本駅到着予定の15時まであと35分、とても着けるとは思えない。更に5分ほど下っ たところで路傍に道祖神を見つける。が、高速で下っていたため通過。2〜3分ほど下った小仏でま たも道祖神を見つけ、MTBを停めてカメラに収める。鳥居をバックに2人が寄り添って立つ微笑ま しい石仏だ(14時35分)。
小仏の道祖神

あまりバスより到着が遅くなるようだと、あとのスケジュールに支障もでることから先を急ぐ。緩い 下りを40km/hペースで走る。と前方に「美ヶ原温泉」の標識。「美ヶ原高原」と間違えて反対 の道へ折れるとそこはブドウ畑の中に続く農道。いかん、またひっかかってしまった。すぐに復帰、 道を急ぐ。 松本市街が近くなってきた。道はほとんど平坦になってきたが、依然35km/hペースで飛ばす。 追い風が吹いているのだろうか、あっという間にお城の近くまで戻ってきた。一度曲がる道を間違え たので、細い道を通ったりしたものの、何とか駅前通りに合流、14時53分播隆上人銅像前に到着。 バスの到着予定時刻は15時05分。だめかと思ったが公約達成というところ。ベンチに腰掛けて待 っているとコンパス姫とミスBがやってくる。驚くミスBとMTBの方が早く着くと予想していたコ ンパス姫。帰りの特急が着くまで2時間半ある。 「さ、グルメ担当部長の出番ですよ」とミスBを促し、信州そばを食べに女鳥羽川の方へ並んで歩き出した。          (本日の走行距離73km(市内散策を含む))

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