山を駈ける風になれ2002年 9月号

 
2002年8月3日(土)北摂/大野山ヒルクライム(2.5万図 木津、福住)
今年2回目の大野山。前回はMTBで山頂から渓谷の森公園方面へ下ったが、今日はロードでアル
プスランドまでヒルクライムをするのが目的だ。実は来週予定している夏休みスペシャル企画“小
豆島一周+寒霞渓”に備えてのトレーニングというところ。
とはいうものの直前対策勉強でもあるまいし、今更一夜漬け的トレーニングをやったところで、速
く走れるようになるわけではない。実際のところは先週付け替えた山岳用スプロケットのテスト、
といった方が正確である。12Tというふつうのサイクリストではまず使うことのないギアと21
−23Tの計3枚のギアをはずし、かわりにロー側に21−24−27Tを取り付けた。
何せ寒霞渓の上りは途中斜度18%の急坂があるとのこと。これまでの“さんくのにーさん”(3
9×23T)ではずっと「押し」が入ってしまう。今日走るアルプスランドの上りはそんな急斜面
は現れないが、27Tというのがどれだけストレスを和らげてくれるのか楽しみなところである。

5時38分、ここ数日の中では一番涼しいかなと思える中、川西能勢口回りで杉生を目指す。いつ
も使っている中速域のギアが一枚ずつトップ側にずれたので、何となく感覚が違う。27Tに合わ
せてチェーンも2コマ足してもらったので、変速時のスムーズさも要チェックだ。
曇ってはいるが結構蒸し暑い。ほっとするのは、いつ通っても空気が冷たい移瀬−石道間の猪名川
沿いの道である。川面からわずかではあるが、川霧が立っている。
途中のコンビニで食料を調達し、6時52分杉生に着く。水分補給を摂った後出発する。ここから
大野山まで約7.5km、標高差540mの上りが始まる。いつもより軽いギアが付いているとい
う精神的余裕?からかそれほど意識せずに平均20km/hペースで上れる。途中から斜度がきつ
くなってきたのでそうもいかなくなるが、それでもこれまでのように「あと○km」と考えながら
走ることもなく柏原に到着(7時11分)。杉生での休憩時間を除いたら実質15分といったとこ
ろか。なかなか調子がいい。
ここで再び水分補給+山頂で飲む用のスポーツ・ドリンクを調達、走り出す。本格的な上りはここ
からである。3.2kmで340mの標高差を上る。とりわけ柏原のバス停前からの上り始めが最
も急。MTBでも嫌になる上りだ。いきなり24Tに落としたギアはすぐに27Tにシフトダウン
する。
今にも止まりそうなスピードではあるが、シッティングでも何とか上れるではないか。大したもの
だ。MTBだとこんなギア比でこの坂はとても上れない。どうにか最初の急坂をクリア、ゴルフ場
への道との分岐まで上がってくることができた。ここからは少しラクになる…と思ったが間違い。
やはり無理して上っていたのか、結構足にきている。ギアはインナー×ローに落ち着いたまま。途
中でダンシングをしてスピード・アップを図るも、すぐに腰にきて止める。
こんなことで斜度18%の坂は上れるのだろうか。ま、だめな時は「押し」て歩くしかないな、な
どと考えながらジワジワ上り続け、7時41分アルプスランドの前を通過。左手に初めて見るのは
完成した大野山天文台だ。天文台正面まで簡易舗装路が続いている。最後のひとふんばり、とフィ
ニッシュラインを通過、天文台の前に立つ。
開館は午後1時半からということでまだ閉まっている。周囲はきれいに整備され公園風になってい
る。展望案内図は絵ではなく写真から作ったものなので、初めてここを訪れた人でも簡単に山座同
定ができる。多紀連山の眺めもよく、はっきりいって山頂より展望はよくなった。
上る時あれほど辛かった腰も山頂の涼風にあたっているうちにすっかり忘れ、軽食休憩ポイントに
移動する。去年この時季立ち寄った「花立岩」である。ロッククライミングの練習場になったか、
岩の側面に金具が打ち込まれているが、裏から回れば素手で登れる。直立した岩の上は高度感満点。
岩の上で大の字になり、しばし流れる雲を追った。
       (本日の走行距離80km)


2002年8月13日(火)香川/小豆島一周+星ケ城山(2.5万図 寒霞渓、草壁、土庄、小江)
夏休みの季節を迎えた。今年は妻の実家(姫路)を拠点にツーリングをということで、船にも少し
乗って旅行気分が味わえる小豆島をチョイス、せっかくだから小豆島最高峰の星ケ城山を登ること
に。11日にウォーミング・アップを兼ねて宝塚から姫路までロードで移動する。

小豆島は瀬戸内海で淡路島に次ぐ面積をもった島。但し地形的には一部を除き全般になだらかな淡
路島と違って全島険しい島である。今回のツーリングに先立って情報を収集したところでは、島の
最高峰へ上る小豆島スカイラインは最大斜度18%のところもあるという。ジロ・ディ・イタリア
の山岳ステージではないのだから、私のような素人にそんな急坂が登れるわけがない。とりあえず
打てる手だけは打っておこうと、リア・スプロケットに27Tを用意して臨んだが…
6時10分、妻の実家を出発、20分ほどで小豆島行きのフェリーが出ている飾磨(しかま)港に
着く。朝一番に島に渡るフェリーは7時15分発だが、既に車がいっぱい並んでいる。お盆だから
帰省する人も多いのだろう。乗船券を買い求めて二輪車のりばに移動する。練馬ナンバーと所沢ナ
ンバーのバイクが2台、ツーリングするのだろうか大学生風の若者が待っていた。
どこのフェリーのりばでもそうだが、二輪車は先に入れてくれるのでありがたい。彼らと共に一番
乗りするや6時50分には自席を確保、1時間40分の船旅を待つだけとなった。船は定刻に出発。
8時55分、福田港に到着。

さて、小豆島に上陸である。昔よく淡路島を走ったが、上陸する度に新たな気持ちになったことを
覚えている。すべての車が出て行ったのを待って、9時ちょうどに福田港をスタート、R436を
南下する。勢いよく走り出したものの1分も経たないうちに最初の上りがやってくる。わかっては
いたが、いきなり「ごめんなさい」という感じの上りだ。
標高差にして40m弱の上りではあるが、いきなり急坂が出てくるとこたえる。ギアの選択が定ま
らないうちにフロントはインナーに。こんなことで大丈夫かいな、というままに一つ目の上りは終
わる。2つ目の上りは標高差50m、3つ目の上りは標高差55m。徐々に体は慣れてくるもので、
一定のペースを刻んで上れるようになってきた。
それでも福田港から18分少々で4度目の上りである南風台を通過、序盤最大の峠、橘峠(120
m)への上りに入る。今日のツーリングはこの序盤の東海岸アップダウンをどの程度の調子で走れ
るかがひとつのポイントになる。特に意識せぬまま橘峠への上りに入っていた。気分は(今年のツ
ールで山岳賞を獲った“ジャジャ”こと)ローラン・ジャラベール。じっくりペースを刻み一定ペ
ースで上っていく。
峠頂上手前でトラックに抜かれる。嫌な予感。案の定、下りですぐに追いついてしまう。抜くに抜
けない状態のまま、せっかくのつづら折りの下りをコバンザメ状態で安田へ。(9時33分)。連
続峠越えをこなしてアヴェレージ24.4km/hはまずまずか。

安田は内海(うちのみ)町の中心地である。ここから内海湾沿いに走る道だけが小豆島唯一の平坦
路といっていい。南から強い風が吹いてくるが、左手に海水浴場を見ながら快走、気がつけば立ち
寄ろうと考えていたオリーブ園を通過、大峠への上りにかかっている。快調に走れるうちに走りき
ってしまいたい。結局10時08分、土庄町平木、渕崎の交差点に着いてしまった。

ここでR436と別れ、寒霞渓の上りに入る。交差点近くの自販機コーナーで水分補給と上りの途
中で飲むためのペットボトルを調達する。東の空を見やれば暑い夏の日差しを遮るかのような峨々
たる山並みが連なっている。「寒霞渓まで15km」と標識はその距離を示している。15kmだ
け辛抱すれば山の上に着く、ということだ。
上庄、黒岩、小馬越と徐々に上っていくと左上斜面に大観音が現れる。淡路島にも同じような観音
さんが立っていた。どうにも興醒めな観音さんだ。
寒霞渓との分岐に着く。ずいぶん上ってきたように思ったが地形図は冷酷だ。標高はわずかに17
1mだ。ギアは一枚また一枚軽くなっていく。ヘアピンカーブが2度現れる。蓬莱峡と錯覚するよ
うな箇所だ。どうにかインナー×ローに2枚残しで銚子滝の手前まできた(10時45分)。

と、ここでついに登場、斜度18%の激坂…しかも道路標識は「斜度18%。これより3.5km
上り急勾配、走行注意」とあるではないか。
「え、斜度18%が3.5kmも続くの?!」…そんなわけはないだろうけど1ヶ所だけだと思っ
ていた急坂が断続的に現れるようである。これはあっさり兜を脱いだ方がよさそうだ。
とは言うものの最初の滝見茶屋の上りでは休憩中の観光客にいいとこ見せようとインナー×ローで
踏ん張って上る。さすがに27Tだ。私のようなものでも上りきることができた。が、すぐにツケ
は回ってくる。18%でないところだって10%以上の傾斜は続いているのだ。次の標高450m
付近からの上りでついに「押し」が入る。日陰を求めて道路の右側に移動する。
200m乗っては300m歩く、という状態が続く。道の両脇にサルが現れる。ヘロヘロ乗ってい
るとむかってきそうなので、毅然と「押し」ながらサルの群れの中を通過する。目を合わしてはい
けない、などと始めは気になっていたが、滴り落ちる汗と急坂でもはやどうでもよくなる。オレだ
って“サル”年だ。
11時20分、右手に「美しの原別荘地」が現れる。前方に分岐の見える手前で自転車をおいて地
形図を広げる。知らない間に標高730m付近まで上っていたようだ。そうとわかれば元気も出る
というもの。水分補給を摂り分岐を右に。四方指展望台だ(11時28分)。展望台横の岩場には
3等三角点「前ノ田」がある。標高776.55m、星ケ城山を主峰とする険阻山と対峙する堂々
たる山塊の最高点である。
斜度18%の急坂四方指展望台にて。正面が星ケ城山

谷をはさんで東には険阻山が大きな盛り上がりを見せ、その麓を小さなロープウェイが行き来して いる。車の人はみんな寒霞渓ロープウェイの方へ行くのだろう、誰もいない静かな展望台でしばら く景色を楽しむ。 さて、ロープウェイの山上駅の方に向う。せっかく上って来たのにもったいないほどの下りが始ま る。険阻山との鞍部まで標高差にして200m以上下るのだ。爆走しているとサルの群れが道路上 にたむろしている。彼らも車やバイクには慣れているだろうが、ほとんど音もなしに猛スピードで 突っ込んでくるロードレーサーは経験が少ないかも知れない。 「危ないで、危ないで」と言いながら、サルがかわし切るものと決めて群れの中を一直線に抜ける。 鞍部まで下るとまた上り。11時45分、土産物屋や食堂が並ぶロープウェイ山頂駅前に到着する。 こちらは多くの観光客でごったがえしている。レストランというからもう少しましなものを想像し ていたのだが、想像以下で食事を諦める。せっかくだからと名物オリーブ風味のアイスクリームを 買ったが、店のおばちゃんの横柄な態度に美味しさも半減。夏場で山の上だから黙っていてもアイ スクリームを買うだろうとタカをくくっているのか。客商売という基本の重要性を思う。こんな祭 りの縁日のような雑踏はやはり向いていない。 水分補給を摂りながら地形図を広げる。最高峰星ケ城山への登山路はこの寒霞渓山頂駅からのびて いる。目の前に見える三笠山には遊歩道がついているようなのでとりあえず行ってみることに(1 2時)。 舗装路から離れて三笠山散策路に入る。途端に誰一人いなくなる。こんなクソ暑い時季に山に登る 物好きはいないということか。「三笠山へ500m」の表示の通り、5分ほどで着く。「山」とは いっても実際は険阻山の西端斜面の一部で公園風に手入れされた西斜面に4等三角点が埋まってい る。 三笠山を過ぎると、「星ケ城山、1.7km」の標識が現れる。三笠山と星ケ城山の標高差は14 0m。道幅のある遊歩道が続いていて特に「登る」という意識のないまま平坦になり、左手に神社 が現れる。星ケ城神社と書かれている。この山は周囲、特に南側から見ると険阻山と呼ぶにふさわ しい容姿をしているが、頂上部を結ぶ稜線はゆったりとした広がりを持っており、雑木林の快適散 策路といった風情で、峨々たる岩峰の上を歩いていることを忘れてしまう佇まいを見せている。 ここからは南北朝時代、南朝方についた佐々木氏の居城跡が次々と現れる。「外の空濠」、「土壇」 を越えると標高804.9mの西峰。ここには阿豆枳(あずき)神社が祀られている。小豆島の祖 神である。南側の岩場からの眺めは絶景である。
星ケ城山、山頂の様子西峰から内海湾を眺める

一旦下って標高差にして40mほどを登れば東峰山頂に到着(12時29分)。小豆島最高峰、星 ケ城山(816.7m)山頂である。端にはツタに覆われた烽火台がありここも絶景が広がる。烽 火台の横に三角点がある。1等である。頭上を覆う木々もなくまともに照りつける日差しが暑い。 最高点から少し戻った森の中にも神社がある。コブに着く度によく神社が現れる山だ。ここの神社 は西峰と同じ名前の神社である。周囲には人工井戸の跡、居館跡、舟形遺構などがあって山城の遺 構をそこここに残している。 下山は同じ道をロープウェイ山頂駅まで戻る(13時06分)。途中でカメラが動かなくなるアク シデントがあったが、本日の予定はほぼ終了した。山頂駅からは下りロープウェイの発車時刻のア ナウンスが聞こえてくる。2週間前のしらび平と違って待ち時間はないようだ。 再びロードにまたがり山を下りる。ここからはしばらく笑いが止まらなくなる楽しい下りだ。一旦 西の568標高点まで戻り、そこから北の大部港へ下る。気圧差で2−3回耳がツンとなる。とき おり対向車は現れるが、ほとんど交通量はない。後ろからやってくる車はない。たまたま同方向の 車がないのか、カーブが多くて追いつけないのか。一方、前を行く車が見える気配もない。 ほぼ下りきったところでMTBに乗った3人組の大学生が休憩しているのに出会う。こんなところ で休んでいるようだといつになったら山の上に着けるのか。と、更に遅れて一人上ってくるのに出 会う。先ほどの3人は彼を待っていたようだ。あんな調子では頂上につくの夕方になるかも知れな い。 13時23分、いっきに下り終えて大部港まで足をのばす。ここは日生(ひなせ)を結ぶフェリー の発着場である。倉庫の陰で船を眺めながら休む。今日のツーリングも残すところ12−3kmと いうところか。14時頃には福田港に着けそうだ。 小さな上りを越すと千鳥ケ浜という海岸を眺めながらの走りとなる。こちらは海が近く気持ちがい い。海の青さが目にしみる。島の北東端にさしかかるとまた上りにはいる。もう慣れっこになって しまった。とにかく淡々と上るだけだ。藤崎を回るあたりがいちばん景色が美しい。「島は時計回 り」という自転車ツーリングの基本を体感する一瞬だ。 標高差80mを下って吉田へ。福田まであと3kmとある。淡路島ならフェリー乗り場までのラス ト3kmは流すだけだが、もう一度アップダウンがある。本当に平坦地のない島だ。最後の上りを こなすと朝、通った風景が目に飛び込んでくる。 13時55分、福田港に到着。予定より1便早い船に乗れそうだ。乗船待ちをしているライダーの 横にロードをおき、乗船券を買い求める列に並んだ。港から見上げる最高峰は雲の中に姿を隠していた。     (本日の走行距離 80km、小豆島部分=65km) 2002年8月15日(木)岡山/日名倉山(2.5万図 千草) 夏休みスペシャル第2弾。兵庫県と岡山県の県境にある日名倉山(1,047.4m)を兵庫県側 から登り、岡山県側へ下って、智頭急行線、姫新線沿いにスタート地点の姫路まで周回する。 播磨北西部、岡山県東部を走るのは初めてなのでとても楽しみだ。今日の目的は日名倉山にあるが、 その他にも志引峠(674m)越えをはじめ、宮本武蔵生誕の地と云われる大原町、昔の町並みが 残る平福など見どころポイント盛り沢山。加えて東粟倉村は亡き義父の生まれた村。私流の供養ツ ーリングになれば、との思いも。 6時ちょうどに姫路をスタート、R179に合流すべく北上する。走行するコースは事前に5万図 でチェック済みだが、市街地を抜けるところだけがいささか不安。案の定当初シミュレーションし ていたルートとは違った道を走ることとなったが、太田の交差点で無事R179に合流。朝から自 爆したのか、橋の上で立ち往生している茶髪のアベックを一瞥して龍野市内に入る。 お盆のしかも早朝とくれば交通量は限りなくゼロに近い。快走が続くがイメージよりも微妙に遅い。 一昨日の小豆島の影響か。新宮町に入ったころから西側の山にガスがかかっているのに気付く。夜 中に雨でも降ったのだろうか。 7時04分、山崎に着く。ほぼ予定通り。ここから県道を北西に走る。山崎断層に沿ってつけられ た道である。まずは最初の峠、切窓峠(280m)をせめる。緩い上り坂に安心して走り続けてい たが、次第に急坂になりスピードがガクンと落ちる。寒霞渓のツケがいきなりでてきたか。最初の 峠からこの調子では先が思いやられる。 7時半、ようやくの思いで峠を越えると土万三叉路へ。下りのなんと短いことか。5万図で現在地 をチェック、次の峠八重谷峠(260m)を目指す。この峠は上りが短く下りが長い。嬉しいよう で、そこまで下っていかなくても…とも思う。 八重谷峠を越すと南光町、千種町としばらく平坦な道が続く。徐々に標高を上げてはいるのだが、 30km/h弱で走れラクだ。道の左脇にヒマワリ畑が現れる。有名なヒマワリ畑はここではない が、町をあげて取り組んでいるのだろうか、咲き誇るヒマワリは道行く旅人の心を和ませてくれる。 山崎からちょうど1時間で「道の駅 ちくさ」に到着。スポーツドリンクを調達する。駐車場の隅 っこで車の屋根から自転車を下ろして準備しているサイクリストの姿が見える。彼はどこまで走る のだろう。 千種川沿いの山間を猶も北上する。左手前方に中腹より上をガスに包まれた大きな山が見えてきた。 日名倉山は更にその奥だ。
南光町ひまわり街道を行く室橋、ここから志引峠へ

8時20分、室橋の交差点に到着。「日名倉山登山口」の大きな案内標識がある。ここから本格的 な上りが始まる。案内標識に自転車をたてかけ記念撮影、水分補給を摂って上りにかかる。室橋を 渡ってカーブすると途端に道が細くなる。村道のような1車線路だがれっきとした国道(429号 線)である。 奥西山の最後の集落を過ぎたあたりから道は徐々に勾配を増してくる。それでも途中までなんとか 最後の一枚は使わずに頑張っていたが、つづら折りの間隔が短くなってきたあたりで遂に今日も2 7T登場。カーブをクリアしながら振り返ると自分でも感心するような急坂を上っている。 それでもいいペースで淡々と登れるのは、一昨日の寒霞渓ほど斜度がないこと、一直線の上りでな いこと、そして何よりもガスっていて涼しいことだ。峠手前で左側の展望がよくなったので自転車 を停めて景色を眺める。 しばらく走ると道幅が広くなった。峠が近づいてきたようだ。やがて前方ガスの中に「岡山県 東 粟倉村 志引峠」と書かれた標識が現れる。着いた。志引峠(674m)である(8時53分)。 休憩する横を車が2台通過していく。助手席の女性が驚いたような表情をしていた。
どうにかクリア、志引峠公園手前ガスる後山方面を望む

日名倉山はガスっていて全く見えない。200mほど下って左折、ベルピール自然公園へと向う。 ここもさきほどの上り同様きつい上りが続くが、もう少しで終点だという思いと、恐らく20℃前 後ではないかと思われる気温に助けられて自然公園に到着(9時10分)。ブライダル・ショーの 準備をしていたスタッフのあちこちから驚きの声が上がる。それほど驚くほどのことではないのだが… 公園から山の方に向って高さ20mほどの凱旋門風の鐘楼が建っている。じっとしていると山から 吹き下ろしてくるガスで寒い。ウインドブレーカーを着たアベックが風を除けて座っている。大阪 は37℃。ここは別世界だ。 登山路はどれだ、と山を目指しかけた途端、サーッという音と共に雨が降ってきた。かなりの雨脚 である。しかたなくいったん自然公園の施設に入る。暖かくてホッとする。どうせすぐに止むだろ うと2階のレストランで軽食を頼む。 高校生くらいだろうか、アルバイトの男のコが自転車でここまでやってきたことに驚き話し掛けて くる。もう一人のスタッフであるおばちゃんも感じがよく、アットホームな雰囲気が漂っていて居 心地がいい。一昨日の寒霞渓のアイスクリーム屋のおばちゃんとえらい違いだ(まだ言うか)。 雨脚が弱まってきたところで再出発だ。1階に下りるとレジ係りの女のコが、 「さきほど峠を上っていらっしゃった方ですか?」と訊く。 「見られちゃいましたか、車に抜かれないようにしてたんですがね」と冗談まじりに2言3言会話。 ここのスタッフはほんとに全員気持ちがいい。こんどは是非晴れた日に来てください、との言葉に 送られレストランを出る。 9時45分、再び頂上を目指す。さきほどの高校生風の兄ちゃんに教えてもらった遊歩道をたどる。 山頂まで1050mとある。道幅のあるよく整備された道でほどよい高さに階段が付けられ歩き易 い。ガスってはいるが雨は止んでいる。スギ、ヒノキの植林帯を抜けるともう頂上部。9時58分、 小さな祠の横に1等三角点の埋まる山頂に到着。今回のツーリングはこと山歩きの部分に関しては ファミリー向けコースである。 晴れていたら遠く四国の小豆島まで見えると案内図には書かれているが、今日の視界はせいぜい5 0m、近くの後山や三室山すら見ることができない。どうも奥播磨の山々とは相性が悪いようで、 『山であそぼっ』の島田さんと登った段ケ峰のときもそうだった。“幻想的な風景”といえば聞こ えはいいが…。 1等三角点の付近にはたくさんの登頂標が残されている。『波豆川山の会』。宝塚の波豆川のこと か。今年6月に登ったようだ。『JH3…』とあるのは無線愛好家か。島田さんやたぬきさんの知 り合いの方かも知れない。 何も見えないので早々に下山する。自然公園に着く直前でまた雨が降ってきた。小雨の降る中自然 公園を後にする(10時15分)。
日名倉山頂上大原宿の町並み

『苦あれば楽あり』…いちばん楽しみにしていた山頂からの下りだが、ブレーキレバーを持つ手が 滑るほどの雨で爆走もできない。カーブも思い切ったコーナリングができない。必然的に減速を余 儀なくされる。雨が降っているのは山の上だけだろうと思っていたがそうでもないようだ。 山道を下って最初の集落で道ばたのお堂に飛び込み、雨宿りしながら現在地を確認する。目の前の バス停は『後山』。後山とはてっきり岡山県最高峰の山の名前だとばかり思っていたが、後山の前 に後山という集落があることを知る。 雨脚は相変わらず。大原(大原町)に向って下っていく。後山川沿いの山深い道を下って行くと大 原の手前で少し開けたところに出る。川東地区である。今年1月に亡くなった義父の生まれたとこ ろだと走り出す前に家内から聞かされていた。勿論何があるわけでもない何の変哲もない山懐に抱 かれた村だが、どんなところで生まれ育ったか、人格の形成という意味において自然環境の豊かさ は重要な要素であると思う。 数分で大原町役場前に(10時48分)。歴史的景観というのだろうか。古い町並を残している。 ここは因幡街道の宿場町だったところで、今も本陣、脇本陣跡が残り、明治の建物だろう旧中国銀 行の支店も残されている。集会場を左に折れると剣豪宮本武蔵の生誕地だ。南北200m程度の小 さな町だが、じっくり訪ねてみたい気にさせる町である。 あがっていた雨がまた降ってきた。先を急ぐ。中町の交差点を左折、2コブになった峠を通過、県 境を越え兵庫県佐用町に(11時05分)。上石井を過ぎたあたりから雨はいっそう激しさを増し、 叩きつけるような豪雨に。県境の峠手前で追い抜いていったライダー達が雨宿りしている。確かに 雨宿りした方がよさそうだ。30km/h以上で快調に走っているが、そのうち目もあけていられ ないほどの凄い降りになった。顔に当たる雨粒が痛い。たまらず、道路わきに開いていた倉庫の中 に避難する。 朝の予報では降水確率10%といっていたが、その10%部分のところだけを選って走っていると いうのか。とにかく滝のような雨が通り過ぎるのを待つ。いったいここはどこだろうと見回すと道 の向こうに小さな駅舎がある。『石井駅』とある。智頭急行石井駅らしい。 雨脚が弱まってきたので再び走り出す。当初予定では智頭急行沿いにR373をのんびりと走る予 定であったが、とにかく次の雨雲に捕まる前に走れるところまで走ることに変更だ。道路脇の気温 表示は26℃を指している。自転車を動かすヒューマン・エンジンは“空冷”だが、今日は“水冷” も併用だ。水分補給も不要でガンガン走れる。 平福が見えてきた。ここも宿場町の面影を残す町である。しかしまたぞろ雨が強くなってきたので 見学はパス、中国道の高架とクロスする口金近でまたしても雨宿り(11時33分)。10分ほど 待てば雨は上がる。佐用の中心部まできたところで青空に白い雲が広がってきた。どうやらこれで 雨雲ともお別れか。 上町の交差点を左折、R179に入る。ここからは姫新線沿いに道を楽しむこととなる。まずは佐 用坂。勾配自体は大したことないが、急に暑くなってきてペース・ダウン。続いて卯ノ山峠を越え て三日月町に入る。路面もすっかり乾いて本日の最高速を記録。道ばたにコンビニを見つけ、昼食 タイムに(11時58分)。 ジャージはすっかり乾いたがクツの中はグショ濡れで歩くと“半魚人”のような足音(聞いたこと はないが)がする。ソーッと音を立てないように歩いてコーヒーとサンドウィッチを買う。しっか り腹におさめて出発。三日月駅前を通り、本日最後の峠である相坂峠へ向う。 峠の頂上が近づくにつれ路面が濡れてきた。またしても雨だ。ここから播磨新宮まで約30分間雨 の中を走る。いったいどこまで雨に祟られるんだ。 12時47分、播磨新宮駅前到着。雨が小止みになったので駅前を探索する。駅前預り所の看板に 『リヤカー、一輪車云々』とあるのを見て、思わずタイムスリップしたような錯覚に陥る。どうや らこんどこそ本当に上がったようだ。 新宮三叉路から龍野、太子、姫路と走る道は昨日までの35℃近い猛暑の中の道に戻っていた。        (本日の走行距離136km)         織田(おりた)さんへのメールはbabrx800@jttk.zaq.ne.jpまで・・・。

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