山を駈ける風になれ2003年 8月号
2003年7月20日(日)山南/ウチガネ(2.5万図 柏原・谷川)
ウチガネは山南町JR谷川駅の東北東約3kmにある標高433.2mの山。高山(409m)と共に北太田
の集落を取り囲む山の一つである。5月に柏原の大新屋峠から坊の奥を縦走した時、奥野々峠の南側に広がる
これらの山々を見、まだ未踏のエリアがあったことを知った。
5時31分、今日はロードだ。久しぶりのツーリングということで、ピレネー初日に入ったツール・ド・フラ
ンスのライブ観戦もそこそこに床につき、気分は一昨日の個人TTで圧倒的な強さを見せたヤン・ウルリッヒ。
ドーンと突っ走れば最初の赤坂峠をいいタイムで通過。あとは無風も手伝って爆走、7時半には下滝駅前に到
着すると水分調達、目的地確認等をして太田の交差点を右折、北太田の集落に入る(7時44分)。
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本日の目的地、ウチガネ。(中央奥の山)
| 登山口(熊野神社)
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正面に姿のいい高山が鎮座している。左肩の鉄塔が頂けないが、逆に登路を探さなくてもラクになったと言え
る。
さて、ウチガネへの登路である。山頂から西にのびる尾根の末端にある地形図の神社マークのポイントからア
プローチを試みる。民家の横から道を上ると鹿除けフェンスに囲まれた神社の前に着く。鳥居に『熊野神社』
と掲額されている。
フェンスの扉を開けて中に入り、内側から閉めるのに苦労していると近くで畑仕事をしていたおばあさんから
開けたままにしておいても構わないと言われる。お言葉に甘えてそのままにして杉木立の鬱蒼とする神社の参
道を進み、本殿の後ろにロードをデポ、支度を整えて出発にかかる(8時00分)。
目の前に超激坂が見えている。幅4mほどの簡易舗装をした道ではあるが、尋常の斜度ではない。我が家の近
所にも斜度30%近い激坂はあるが、それを凌いでいることはひと目見ただけでわかる。実際登りにかかって
更にびっくり。まるで人工壁のホールドのように滑り止めの石が埋め込まれている。プロの山岳スペシャリス
トでもこんな変則『パヴェ』の激坂は上れまい。
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熊野神社奥にある激坂。斜度40% |
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激坂を登りきると町の配水施設があり道はそこで終わっている。当然予想されたことなので、配水施設の裏手
から登り易そうなところを求め、シダの生い茂る激斜面をヤブ漕ぎする。胸までシダに埋まりながら10分ほ
どヤブ漕ぎすればウチガネ西尾根に出る(8時15分)。
飛び出した地点には赤いプラ杭が埋まっており、左右にかすかな踏跡がある。雑木ヤブで視界はない。尾根筋
を東に辿っていけば、以前馬頭から古坂への縦走路で見た『タルタニ』の石標もある。更に進むとNo98鉄
塔が建つビューポイントに出る。
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No98鉄塔から高山を臨む
| オオ谷(346.5)越しに石戸山
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北側には谷を挟んで高山が400mそこそことは思えない山容を見せ、西は石戸山から高見城山、南は妙見山、
テンロクといった山々を眺めることができる。しばらく景色を眺めて再び出発する。頂上までは緩急交互に現
れるヤブ尾根歩きが続く。2度ほどもう頂上かな、というところを過ごし雑木を掻き分けて最後のひと登り。
三角点標識が見える山頂に到着(8時45分)。展望はないが、ホオジロ、シジュウカラの声が爽やかな山頂
である。三角点は3等。三角点に腰掛け、どっと噴出す汗を拭う。
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ウチガネ山頂
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10分ほど休んで下りに入る。予定では北東の386標高点から石船坂に下り、石船林道を下りるつもりだっ
たが、386山からの町界尾根はヤブっていて歩きにくく、おまけに途中で東西に横切る歩き易い踏跡を見つ
け、それを辿って西に振り、植林帯の斜面に谷沿いに付けられた道をネットまたぎをしながら下れば林道終点
の広場にピンポイントへ転がるように着地(9時23分)。ドロを払い、着替えてデポ地に戻れば、一体どこ
から下りてきたんだとさきほどのおばあさんに驚かれる。聞けば98鉄塔から南西尾根を歩いて戻ってくる道
もあるとか。おばあさんとひとしきり喋った後は再びツール・モード。いい走りでゴールイン。
(本日の走行距離118km)
2003年7月24日(木)篠山/鬼坂峠〜村雲山(2.5万図 村雲)
今年の梅雨は長い。いつになったら明けるのだろうか。おかげで今月もほとんど走れていない。今日は半年ぶ
りに平日休みを取ったこともあり朝のうち軽く流してこようと走り出す(5時25分)。
今日もロードだ。昨夜の雨は上がったようだが、どんより重い空、おまけに非常に蒸し暑い。こういう時、
“空冷”である自転車スポーツは助かる。川西能勢口を回りいつもの県道川西篠山線を北上する。進むほどに
前方の山々に雨雲がかかっているのが見えるが、雨に降られるということもなく、杉生新田あたりになると雲
の切れ間から青空がのぞきはじめてきた。
もう少し行けそうだ。泉郷峠から天王まで足を伸ばしいっきに福住まで下る(7時30分)。弱い向い風をつ
いて板坂峠方面へ走っていたが、ちょっと山にも登ってみたくなった。簡単に登れる山はないだろうか、と考
えながら走っているとまだ登ったことのない超低山、村雲山があったことを思いだし峠の手前でターン、筱見
方面へ折れる橋を渡って小立から清滝山の麓を捲いて鬼坂峠に向う。
鬼坂峠は10年ほど前に来たことがある。近くに広い道ができて周囲の風景は若干異なっていたが、峠の付近
だけは以前のままだ。高低差も小さく峠というほど大層なものではない。“鬼気迫る”というほどの雰囲気は
ない。しかし植林が道の両脇に迫り凛としたものを感じるいい峠である。
村雲山は峠の真東の方向にある。踏跡はないかと見回してみたがなさそうだ。坂を下ったところに左へ林道が
見える。池のほとりから電流柵越しに山へ入っていく径を見つけロードをデポ、柵を潜って山道を行く(8時
15分)。
道はすぐに無くなるが、村雲山とすぐ西のCa300コブの間の谷筋を登ると東西に踏跡が付いている。右雑
木林、左植林という切れ目をクモの巣に悩まされながら進み、最後に一登りすれば踏跡を2mほどヤブの中に
入ったところに三角点が埋まっている。村雲山331.2m4等三角点である(8時25分)。
周囲の木が生い茂り展望はない。木々の間から車塚から細工所へ走る道路が見える。超低山といってもせっか
くの山頂、ゆっくり山頂の雰囲気を味わいたいところだが、この時期低山の悩みは汗に集まってくる虫達。ブ
ンブンうるさいので早々に退散、Ca300コブを越えて踏跡を辿ろうとしたが、あまりに付き纏う虫が煩わ
しいので元来たルートを下ってデポ地に戻る(8時36分)。
するすると下って集落をぬけ、車塚へは行かずに東本庄へ。紅葉が美しい洞光寺の駐車場でレーサーパンツや
ソックスに付いたクモの巣や泥を払い、再びツーリングモードに。篠山盆地を東から西へ横断、最後の赤坂峠
から西宮名塩への下りでメカトラブルもあったが、気持ちよく走りついで11時過ぎには家に戻った。
(本日の走行距離123km)
2003年7月25日(金)〜27日(日)
北アルプス/白馬〜八方〜唐松岳 (2.5万図 白馬町)
☆プロローグ
「山小屋ってお風呂あるんですか?」
「無いよ」
「シャワーは?」
「無いよ。山では水は貴重なんやから・・・」
「えーっ?! 私、お風呂に入らないと気持ち悪くて寝れないんですぅ」
「・・・(-_-;)」
ここですかさず横から割って入ってきたのはメンバー中一番の山小屋経験者、ミセスF、
「寝るのもねえ、ひどい時になったら1枚の布団に3人、なんてこともあるんですよ」と言う。どこそこの
山小屋ではあんなことがあったの、こんなことがあったのと“武勇談”とどまることを知らず状態・・・。
あのなあ、ただでさえビビッっているコンパス姫にこれでもかとダメ押ししてどうするんだよ、全く・・・。
「麓のペンションに泊まることにしましょうか」とミセスF。
「いいですねえ。夏はそれで行きましょう。秋はどこへ行きます?」はトレックF代。
・・・何でいきなり秋まで飛ぶんだよ・・・。
以上は4月のヤブ山歩き、帰りの列車の中での会話である。かくしてわが会の夏山スペシャル山行計画は立ち
上がったのである。
7月25日(金)夜/難波〜白馬
さて、改めて今回の参加メンバーを紹介しよう。まずは出発前からボケ炸裂で、山の常識・非常識を再確認
させてくれたのはザックカバーの予備を持ってる(間違えて買っただけのこと)コンパス姫。そして盲腸手術
明け1ヶ月、フツーに歩けるようになったのも最近のことというのはミセスF。最後はMTBにはまって“土
方焼け”がすっかり板についてきた?トレックF代のレギュラー3人。
天神祭である。大川端は船渡御を見物する人達で賑わっていることだろう。浴衣姿の若い女性やカップル達の
流れに抗うかのようにOCATのバス・ターミナルに着くとそこは週末の旅行客でいっぱい。なかでもひとき
わ目立つのは信州方面行きの一角。夏山シーズン到来で登山客が溢れかえっている。
待合室のベンチに腰掛けているとコンパス姫とミセスFがやって来た。私の隣にザックを下ろすなり「メッチ
ャ重たいですぅ」とコンパス姫、こんなの背負って歩けるかどうか不安だという。
カウンターで『さわやか信州号』白馬行きの受付を済ませ、21時半の発車を待つ。上高地・穂高行きのバス
が次々と我々の前を出発していく。それに続いて白馬行きのバスが2台出発、ごった返していた大集団がかな
り小さくなった。われわれが乗る4号車はまだ来ない。結局15分遅れで到着。われわれの他数名が乗り込ん
だところですぐに動き出した。さあ、暑い大阪を脱出だ。
23時を少し回った頃バスは京都駅前に到着する。多くの京都組に混じってF代が乗り込んでくる。これで全
員揃った。一別以来の挨拶を交わし、彼女のマシンガントークにお付き合いしているうちに賑やかだった車内
も一人二人と寝息が聞こえはじめ、われわれも右にならう。
・・・ちょっと眠っていたようだ。何時だろう。アイマスクを取って腕時計を見る。4時半か。外が白み始めてき
たようだ。窓の外を見る。常念(*1)のピラミダルな姿が今まさに朝日を受けて輝こうとしている。
(*1:常念岳、2857m)
隣の席で眠っているコンパス姫を揺さぶり起こして見せてやりたい衝動にかられるもぐっすり就寝中のような
ので一人静かに久しぶりに見る北アルプスの景色を楽しむ。
・・・扇沢までは覚えていたがまた眠っていたようだ。気がつけば白馬の駅前である。白馬に登る人達が降りていく。
再び数名となったバスは数分のうちに八方のバス・ターミナルに。さあ、着いたでぇ!(6時15分)。
☆7月26日(土)朝/白馬八方〜八方池山荘前
なんていい天気なんだろう。真っ青な空、目の前には白馬三山が迫っている。一刻も早く歩き出したいがまず
は朝飯だ。バス・ターミナルの待合室で持参の朝食を済ませ、ペンションで使うものなど山に持っていかない
のをサブ・ザックに分けてコインロッカーに預けるよう指示する。と、いきなり
「カッパ、要らないですよね」とコンパス姫、置いていこうとする。おいおい、軽くしたいからといって必需
品を置いていってどうするんだよ。
「カッパ置いていってどこで着るんです?」とミセスFがツッコミを入れる。爆笑のうちに支度も出来上がり
ゴンドラリフト乗り場に向かう(7時05分)。
乗り場に行くと既にかなりの列ができている。切符を買って並ぶ。ロープウェイじゃないから列はどんどん流
れていくのでそうたいした待ち時間ではない。ここから八方池山荘前までは3つのリフトを乗り継ぐ。
まずは2人ずつ背中合わせに座る4人乗りのゴンドラリフトで標高1,400mの兎平へ。8分で兎平に着く。
只今の気温17.2℃、872hpaと出ている。もう十分に涼しい。兎平からは4人1列座りのアルペンリ
フト(所要時間5分)。フル・オープン。背中に朝日を浴びながら眺める後立山連峰の山々とリフトの斜面に
咲き乱れる草花に全員のテンションも上っていく。
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白馬八方バス・ターミナルから白馬鑓ケ岳
| 黒菱平、湿原に白馬三山が映る
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リフト乗車記念写真を撮る兄ちゃんに思いっきりの笑顔を振り撒くミセスF。5分で黒菱平に着く。
そばの小さな湿原の水面にきれいに杓子、白馬鑓の2座が映っている。思わず立ち止まってシャッターを押す。
最後も4人乗りリフト、グワートクワッドリフトだ。ここも所要時間は5分。合計18分の空中散歩で八方池
山荘に着く(8時05分)。山荘前の土産物屋をひやかしながらいよいよ歩きにかかる(8時10分)。
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リフトから五竜と鹿島槍
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八方尾根〜唐松岳頂上山荘
先頭はミセスFだ。私はしんがりを歩いてデジカメ片手に“スクープ班”に徹する。これは前からメンバー間
で決めていたことで4人が一番効率良く歩けると判断してのこと。歩き始めは石を敷き詰めたハイキング道で
ある。傾斜も緩くゆったりと歩ける。白馬鑓ケ岳から天狗の頭、天狗の大下りが大迫力で迫る。
「うわあ、写真見てるみたいですねえ」とF代が感動する。昨日まで雨だったとかで空気中のホコリが落とさ
れ、何もかもが瑞々しく輝いている。変な感動の仕方だが、F代の言うこともわからないではない。しばらく
行くと木道の横に雪渓が現れる。真夏に雪は森林限界初体験のコンパス姫とF代にはこれまた感動もののよう
である。
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五竜、鹿島槍を眺めながら歩いていく |
初めて見る雪渓に喜ぶ2人 |
第2ケルン手前から天狗の頭
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ちょっとした坂を登って第2ケルン手前のトイレ前に着く(8時38分)。中高年登山者の長い行列にぶつか
る。うさぎさんチームだのカメさんチームだのと言っているが、私からすればどちらもカメさんチームである。
お喋りに夢中で他の登山者の事など眼中になく、だらだら歩いて交通渋滞を引き起こしている。なんでそんな
大集団で山歩きをするのか。
コンパス姫が粉末のエネルゲンを溶かしてドリンクを作る。八方池までは850m、第3ケルンは帰りに寄る
ことにして八方池に下りる(9時08分)。ここはさすがに撮影スポットだけあって多くの登山者や旅行者が
記念写真を撮っている。水面に映る“逆さ白馬三山”は有名だが、今日は水面に漣が立ち拝めない。
主稜線に戻る。F代が、
「これ、尾根を歩いているんですよね」と訊く。
誰がどう見たって尾根だ。だいたい今日のコースは八方尾根を行くと言っている。
「で、今日はどこ登るんですか?」
「え?」
思わず稜線から転げ落ちそうになる。何ヶ月も前から準備して渡してきた資料は何だったのか。
「『何時何分どこ発のバスに乗れ』とだけ言われて連れて来られはしたけれど、って感じですね」とミセスF
が笑う。
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小休止
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八方池から10分ほどで下の樺に入る。美しい樹林帯である。下の樺を抜け、短い雪渓を渡り、再び樹林帯に
入る。集団登山の地元の中学生が下りてくるのとぶつかり片側交互通行になる。元気に挨拶していく姿に清々
しいものを感じる。
樹林帯を抜けて小広くなったポイントで小休止とする(10時20分)。
「どの辺まで来ましたかね」とコンパス姫、私が作ったスケジュール表を広げて確認し始める。現地確認する
のは地図だろうが。スケジュール表を見てどうやって現地がわかるんだ、と大笑い。おまけにスケジュール表
ではど〜んと時間帯が開いている箇所で、仮に完璧にスケジュール通りに歩いていたとしてもどこかわからない。
「今、この辺ですかね」と代わりにF代が地形図を広げて指をさす。が、そこは第1ケルン辺り。
「戻ってるやん」
「これだけ歩いてまだ第1ケルンは悲しいものがあるで」
と口々にツッコミが入る。交替でボケの連発はきつい。これ以上休んでいるとどんなボケが炸裂するかわから
ないので歩き始める。
すぐに紅ガラでルートを引いた雪渓が現れる(10時30分)。
「何で赤いんですか?」とコンパス姫が訊く。これは尤もな質問なのでまじめに答える。足を滑らせてバラン
スを崩したミセスF、雪に“突き”を入れてジャッキー・チェンみたい、って一人やっている。
下からガスが吹き上げてきて乳白色の世界になってきた。更に30分ほどで丸山に着く。南側から吹き上げて
くるガスが冷たい。冷蔵庫の中に頭を突っ込んでいるようで気持ちがいい。
11時15分、沢の頭を横切る小さな鎖場を通過する。同じような道が続き、山荘は近いのか遠いのかわから
ない。
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紅ガラの雪渓を進む
| 谷の源頭を横切る
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「『牛首の頭』(*2)ってどんなんですかね」とF代がいう。
「牛の首みたいな形をしてんじゃない?」
「見えますかね」
「このガスの中じゃあね」
などと言いながら歩いてると突然目の前に山荘の輪郭がぼんやりと浮かび上がる。11時28分、意外と早か
ったじゃないか。中高年大集団の渋滞に巻き込まれなかったからか。
(*2:牛首の頭、唐松岳頂上山荘の南約100mのところにあるコブ)
「やったー!」F代が歓声を上げる。続けて
「ね、山荘と山頂、どっちが高いんですかね」
「何でやねん。山荘の方が山頂より高かったらそこが山頂やんか。下って着くようなところ、山頂って言わへ
んのとちゃう?」
ボケは果てしなく続く…。
☆唐松岳頂上山荘〜唐松岳山頂
山荘前のどこか空いてるスペースで昼飯を食べることに。着いたときはそうでもなかったがガスが吹き抜けメ
チャメチャ寒い。兎平で17℃だったことから推測すると10℃前後か。ガスに太陽は遮られ体感温度は5℃
といったところ。
テーブル付きのベンチが空いていたのでそこに腰を下ろす。半袖半パンではとても耐え切れずトレーナーを引
っ張り出し、カッパの上下を着て保温をはかる。指がかじかんでソーセージの皮がむけないと悪戦苦闘してい
るコンパス姫。カッパをコインロッカーに置いて来なくてよかった。
ミセスFとF代は今年2月の雪の大野山で摂った“寒々しい食事”を思い出したか震えながら笑っている。と
にかくゆっくり食事してなんかいられない。手早く済ませ出発にかかる。
山荘前まで戻って山荘の後ろを登って行く。今いるところより高いところを辿っていけば山頂に着く、と何の
疑いも持たずに進む。5分ほどでピークに着く。いくらなんでも早すぎる、と思っていると左下の道を前方に
進んでいる人の列がガスの向こうに見える。いかん、山頂はあの先だ。地形図を広げると長野と富山の県境を
進んでいる。正式といえば正式なルートかも知れないが、余計な体力を使ってしまった。
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寒々しい食事
| ガスが流れて一瞬山頂が顔を見せる
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登山者達の列に合流し山頂を目指す。ときおり風に流されてガスが切れると頭上にのしかかるように山頂が姿
を現す。
「よし、もう少しだ」
メンバーを励まし一歩一歩登る。一足先にF代が山頂に登る。彼女に続いてわれわれも山頂に立つ(12時3
6分)。黄色く塗られた柱の横に三角点が埋まっている。2695.8m2等三角点である。『唐松岳山頂』
と書かれた登頂標はわずかに低いところにある。
カッパを着て登るとやはり暑い。脱いで無造作にザックに放り込む。横でコンパス姫がきれいに折りたたんで
袋に収納しようとしている。今、このガレガレの頂上でそんな丁寧に直さなくてもいいじゃない。
他の登山者達が登頂記念写真を撮り終わるのを待ってわれわれも記念写真を撮影する。あいにくガスっていて
何にも見えないがこれも山の表情、と初めての2人には許して頂こう。結局13時過ぎまで山頂にいて下山に
かかる。
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山頂に到着
| 山頂にて
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☆7月26日(土)午後/唐松岳山頂〜八方池山荘前
手術後ということで一番体力に不安があったミセスFがなんとか乗り切れたこともあり、下りは順番を変えて
一番余力がありそうなF代を先頭にする。同じ道を戻るだけだから大丈夫だろう。
10分ほどで唐松岳頂上山荘の前を通過すると丸山方面への長い下りに入る。10分ほど軽快に下ったろうか。
30mほど先を一人離れて歩いていたF代が登ってくる登山者に地図を広げながら喋っている。
「おい、地形図広げてるで。ちゃんと場所、説明できるんかいな」
「第1ケルン、とか言ってるんじゃないでしょうね」
言いたい放題言いながら追いついて聞くと、相手の登山者の質問は山荘までの所要時間。
「あと15分くらいですよ」
「や、ありがとうございます」
話はワン・センテンスで終わる。
これから先の彼女達の心配は雪渓の下り。雪渓は3ヶ所ある。1番目の下りはこわごわクリア、2番目の紅ガ
ラを撒いたコースは迂回路を見つけ、上の樺を下りきったところにある3番目の雪渓の前に着く(14時20
分)。
ハイキング気分で登ってきた観光客の若いカップルがF代に写真をとってくれと頼んでいる。いろいろ煩い注
文に嫌な顔も見せずに写真を撮るF代。ここから先はどうかと尋ねるからこんな山道がまだまだ続く言うと、
じゃあここで引き返そうかと言いながら、危なっかしい歩き方で、でももう少し行こうか、なんて言っている。
勝手にせい。
このカップルがそこいらを歩き回ったせいかどうかは知らないけれど踏み跡が不鮮明になっているのでF代に
代わって先導、F代が後に続く。
さて、残る2人はヘッピリ腰状態。キャーキャーいいながら下りる様子が面白いのでデジカメを構えてポーズ
を取らせれば、“コンパス姫、雪の上で盆踊り”の“危ない”写真が出来上がる。
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ポーズをとったら「雪の上で盆踊り?」
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下の樺を過ぎ、八方池の上まで戻ってくる(14時50分)。朝より天気が悪く、周囲の展望はない。
「私たち、この池通ってないわ」とマジな顔でコンパス姫がいう。
「何言うてんねん。朝、あの横で写真撮ったやんか」。景色は違うし池の色まで変わっているのでわからない
のも無理ないことかも知れない。
やはり長時間の歩きは辛いのかミセスFの足が目立って遅くなってきたので、休憩を取ることにする。
第3ケルンを背にして、
「あのケルンのところで休憩しましょう」とF代。あともうひと登りとミセスFを励まして歩いていけば、ケ
ルンに見えたのは石の上に乗っかってるお地蔵さん、
「どこがケルンやねん。ちっこい地蔵やんか」とツッコミが入る。疲れてくるとケルンが地蔵に見えたりする。
力が抜けたところで10分間の休憩。
もうここまで来ればあと僅か。だらだらとした下りが続く。
「今日のコース料理はサーロイン・ステーキですかね」とF代の頭の中は早くもペンションのフルコースに飛
んでいる。15時55分、八方池山荘前に到着。みんなお疲れさん。
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ペンションの前で
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7月26日(土)夕方/八方池山荘前〜白馬八方
朝より気温が低く寒くて仕方がない。なのに女性陣はソフトクリームを食べようと言っている。冗談かと思っ
たら本気だ。一口どうですか、と差し出してくれるが見ただけで頭がキンキンになりそうだ。
丁重にお断りして彼女達の胃袋にソフトクリームが収まるのを待ちリフト乗り場へ(16時10分)。
フル・オープンのリフトは拷問台へと変わる。冷たいガスが流れる中を高速で下って行く。
「寒ぶ〜!!」
「う〜っ!!」
「だから何でソフトクリームなんか食べるのよ」
5分間のなんと長いことか。霧でリフトの下り場が見えないのでいつになったらこの拷問から解放されるのか
見当がつかない。どうにか黒菱平に着くと、ホッとする間もなくまたまたリフトが待っている。今度も5分だ。
おまけに今度は座席がアルミ。座ると冷たい。
「あーっ!△☆×◇…」
これでもか、と寒い思いをして兎平へ戻ってくる。建物の中の売店でまたもやブルーベリーのソフトクリーム
を見つけた彼女達、
「あ、こっちの方が美味しそう」とか言っている。どうなってんだ、こいつらは。さっきリフトでギャーギャ
ー言ってたんじゃなかったの?
さすがに立て続けにソフトクリームを食するということはなく、“暖かい”ゴンドラリフトに乗って下界へ下
り、サブ・ザックを預けた白馬八方のバス・ターミナルに向かう。みんなの表情には疲れの中にも充実感が漂
っている。
どうにか無事に下りてくることができました。全員お疲れさま(17時05分)。早くペンションに行って天
然温泉に入ろう。
☆おまけ
われわれが利用したペンションはオーナーが大のタイガース・ファンのセレナーデさん。今年は独走中なので
テンションが高い。温泉に入り、フルコース料理に舌鼓を打つ。翌27日は朝からお散歩。ペンションに戻っ
てこれまた美味しいパン・バイキング。異常に食欲旺盛なわれわれグループ、あらかた平らげてペンションを
後に。お土産を買ったり、散歩の時に目をつけていたお店でケーキセットを食べたあと、みみずくの湯に入る。
温泉から上がってきて体重計に乗ったコンパス姫とF代、服着てるし…と同じ反応。この後オーナーに教えて
頂いた信州ソバの美味しい店でまたしてもグルメ。北アルプスを歩いて一回り大きくなって帰るわれわれ一行
であった。
織田(おりた)さんへのメールはbabrx800@jttk.zaq.ne.jpまで・・・。
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